特撮怪獣とは
なぜ、我々は怪獣に惹かれるのか。
山あいからゴジラが咆哮と共にその姿を現した時、驚き恐怖を感じると同時に、憧憬とも云うべき感情を抱かなかったか。
ゴジラが東京に上陸し、銀座の街や国会議事堂を破壊した時、喝采をおくらなかったか。
「壊せ! こんな街、壊してしまえ!」と心の中で叫ばなかっただろうか。
もちろん、人類の脅威となる怪獣に敢然と立ち向かう主人公たちの姿に感情移入し、
怪獣が倒されれば安堵するという気持ちも生じる。
特に最初の『ゴジラ』(1933年)のラスト、芹沢博士が自らの命を犠牲にして、
ゴジラと兵器を同時に葬る姿には涙を禁じ得ない。
そして山根博士の「あのゴジラが最後の一匹とは思えない…」というつぶやきに、襟を正されると共に、
新たな怪獣の出現を待ち望む自分を見つけるのだ。
怪獣は絶対になれない、憧憬する我々自身の姿であり、日常を破壊して去っていく非日常=“ハレ”の象徴ではなかろうか。
そして我々は待ち続ける。永遠に待ち続ける。
現実には決して現れない、まだ見ぬ怪獣を。
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